株価の正体
「PERの目安は15倍」——この15はどこから来たのか。
投資の本には「PER15倍が平均」と書いてある。だがこれは観測結果であって、 理由の説明ではない。なぜ15なのか、どういう会社なら30でも安いのか。 それを出せるようにする。
PERは倍率ではなく、利回りの逆数である。 15倍とは「年6.7%の利回りを求めている」と言い換えられる
株を持つとは何を持つことか
株を持つと、その会社が将来生み出す現金の一部を受け取る権利を持つ。 配当として受け取るか、内部留保されて株価に反映されるかの違いはあるが、 根っこは同じ。だから株の価値は将来の現金の合計で決まる。
ただし単純な足し算にはならない。 来年の100円と10年後の100円は同じ価値ではないからだ。
なぜ将来のお金は割り引かれるのか
理由は3つある。
- 今もらえば運用できる — 今の100円は10年後には100円以上になっている
- 確実にもらえるとは限らない — 会社が傾けば消える
- 物価が上がる — 同じ100円で買えるものが減る
この3つをまとめて割引率と呼ぶ。 年 r で割り引くなら、n 年後の C 円の今の価値は次の通り。
具体例
割引率5%のとき、10年後の100円は 100 / 1.0510 = 61.4円。 30年後なら 23.1円。 遠い将来のお金ほど、今の価値では小さくなる。
ここからPERを導く
毎年 E の利益を永久に生む会社を考える。成長しないとする。 その価値は、毎年の E を全部割り引いて足したもの。
無限に続くが、これは等比級数なので収束する。
- 公比は
1/(1+r)。1より小さいので収束する - 初項
E/(1+r)、公比1/(1+r)の等比級数の和は初項 / (1 - 公比) - 計算すると
P = E / rになる - 両辺を E で割ると
P/E = 1/r
これが「15倍」の正体。 割引率が約6.7%なら、1/0.067 ≒ 15。 日本株の期待リターンが6〜7%程度とされることと符合する。
つまりPER15倍とは「この会社に年6.7%の利回りを求めている」 という意味。PERが20倍なら5%、10倍なら10%。 PERは利回りの逆数だと分かると、高い安いの議論が具体的になる。
成長を入れる
現実の会社は利益が伸びる。毎年 g の率で伸びるとすると、 式はこうなる(ゴードン成長モデル)。
なぜ分母が r − g になるのか
- n 年後の利益は
E(1+g)ⁿ、その現在価値はE(1+g)ⁿ / (1+r)ⁿ - 公比が
(1+g)/(1+r)の等比級数になる - r > g なら公比が1未満なので収束する
- 和を計算すると
E / (r − g) - g が r に近づくと分母がゼロに近づき、価値が発散する。 これは「永久に高成長は続かない」という前提が破れているため
動かして確かめる
適正PERを出す
成長率を変えたときの適正PER。r に近づくと急激に跳ね上がる。
成長率が割引率に近づくと、PERは急激に発散する。 グロース株のPERが100倍を超えることがあるのはこのため。 だが同時に、成長率の見込みが少し外れるだけで価値が大きく崩れる。 高PER銘柄が悪材料で急落するのは、この構造による。
使えるPERと使えないPER
PERを見るときに確かめること。
- その利益は続くか 特別利益(資産売却など)が入っていれば来期は消える。 営業利益ベースでも見る
- 何と比べているか 業種によって適正 g が違う。成熟産業と成長産業を同じ物差しで測らない
- 実績か予想か 実績PERは過去、予想PERは会社予想。 会社予想は保守的に出す会社と強気に出す会社がある
- なぜ市場はそう見ているのか ここが本番。低PERの理由が「一時的な悪材料」なら機会、 「構造的な衰退」なら罠
PBRとROEの関係
PBRとROEは独立ではない。掛け算でPERになる。
導出
- PER = 株価 / EPS、ROE = EPS / BPS
- 掛けると
(株価/EPS) × (EPS/BPS) = 株価/BPS - これは PBR の定義そのもの
つまり ROEが高い会社はPBRが高くて当然。 「PBRが高いから割高」という判断は、ROEを見ずには成立しない。
PBR1倍割れの意味
PBR1倍は「会社を今解散して資産を配ったときの価値」と株価が等しい状態。 1倍を割るのは、市場が「この会社は資産を持っているだけ価値を減らす」 と見ているということ。上の式で言えば、ROE が r を下回っている。
東証が2023年にPBR1倍割れ企業へ改善を求めたのは、 この状態が資本の無駄遣いだからで、単に株価が安いという話ではない。
確認
A社はPER30倍、B社はPER10倍。どちらが割安かを判断するのに、次に必要な情報は?
PER = 1/(r − g) なので、比較するには両社の g(成長率)と r(リスクに応じた要求利回り)が要る。 成長率5%・割引率8%のA社は理論PER33倍なので30倍は妥当。 成長率0%・割引率10%のB社は理論PER10倍なのでこちらも妥当。 数字だけでは比較できない。
PER50倍の成長株。期待成長率が6%から4%に下方修正された(割引率8%)。理論株価はどうなる?
PER = 1/(r−g) なので、 修正前 1/(0.08−0.06) = 50倍、 修正後 1/(0.08−0.04) = 25倍。 成長率が2ポイント下がるだけで理論価値は半分になる。 高PER株が小さな悪材料で急落する理由がこれ。
この章のまとめ
- 株価 = 将来の現金を割り引いて足したもの
- PER = 1/(r − g)。PERは要求利回りの逆数
- 「15倍が目安」は、割引率6〜7%を前提とした数字
- 成長率が割引率に近いほどPERは跳ね上がり、同時に脆くなる
- PBR = PER × ROE。3つは独立していない