指標事典
各章で出てくる指標を1か所にまとめた。読む用ではなく引く用。
各項目には「注意点」を必ず付けてある。 指標は何かを測る道具であって、同時に何かを測っていない。 測っていないものを知らずに使うのが、指標の最も危険な使い方になる。 定義と目安だけなら他にいくらでもあるので、この事典の価値はそこにある。
「目安」に書いた数値はおおまかな参照点であって、 判断の基準ではない。業種・規模・時期によって適正水準は変わる。 目安から外れていることは、それ自体では何も意味しない。 外れている理由を特定して初めて情報になる。
また制度に関する項目(NISA・iDeCo・税率など)は改正される。 本ページの記述は執筆時点のもので、 実際の手続きの前に 出典 にある 公式情報で現行制度を確認すること。
分類ごとの項目数。上の検索欄に入力すると、 一致した件数だけが濃い棒として残るので、 どの分類に当たっているかが読める。
バリュエーション
定義 株価が1株利益の何倍かを示す。「利益の何年分の値段が付いているか」と読める。
目安 日本株の市場平均はおおむね14〜18倍。ただし業種差が大きく、成熟産業で10倍前後、高成長業種で30倍超も普通。
注意点 理論上は PER = 1/(r−g) なので、成長率と要求利回りを知らずに高い安いは言えない。赤字だと計算不能。特別損益が入ると1年だけ大きく動く。資本構成(借金の多さ)でも歪む。
導出・詳細 → 株価の正体
定義 株価が1株純資産の何倍かを示す。会社を解散して資産を配ったときの価値に対する倍率。
目安 1倍が「解散価値と同じ」の目安。日本株では1倍割れの企業が多数存在してきた。
注意点 PBR = PER × ROE なので、ROEが高い会社はPBRが高くて当然。単独では判断できない。また簿価と実態が乖離する業種(不動産・IT・のれんの大きい会社)では意味が薄い。
導出・詳細 → 株価の正体
定義 時価総額が年間売上高の何倍かを示す。赤字企業でも計算できる。
目安 業種依存が極端に大きい。低粗利のビジネスで0.3倍、SaaSで10倍超が同時に存在する。単一の目安は存在しない。
注意点 利益率を完全に無視する。売上100億で利益ゼロの会社と、売上100億で利益30億の会社が同じPSRになる。赤字成長企業を評価する最後の手段であって、優先して使う指標ではない。
導出・詳細 → 企業価値を見積もる
定義 株価が1株あたり営業キャッシュフローの何倍かを示す。
目安 PERより低い値になる(営業CFは純利益より大きいのが普通)。10倍前後が1つの参照点。
注意点 減価償却の方針による差を吸収する点でPERより頑健だが、設備投資を引いていないので、設備が重い会社を過大に見せる。FCF(営業CF−設備投資)で見るほうが安全。
導出・詳細 → 財務3表の構造
定義 会社の事業そのものの値段。株主と債権者の取り分の合計。
目安 現金を多く持つ会社では EV が時価総額を下回る。ネットキャッシュ企業では EV が極端に小さくなる。
注意点 使う「現金」の範囲が論者によって違う。有価証券や関係会社株式を含めるかで数字が変わる。比較するときは同じ定義で揃える。
導出・詳細 → 企業価値を見積もる
定義 企業価値がEBITDAの何倍かを示す。M&Aの相場観として最も使われる。
EBITDA = 営業利益 + 減価償却費
目安 日本株では6〜10倍が一つの範囲。8倍前後が「買収価格の目安」として語られることが多い。
注意点 分子・分母とも資本構成に中立なので、借金の多さが違う会社を比較できるのが最大の利点。ただし減価償却を引かないので、設備投資が重い会社を組織的に過大評価する。同業種内でのみ使う。
導出・詳細 → 企業価値を見積もる
定義 株価に対して年間いくら配当が支払われるか。
目安 日本株の平均はおおむね2%前後。4%を超えると「高配当」と呼ばれる水準。
注意点 高利回りは配当が高いからとは限らず、株価が下がったからのことが多い。減配されれば利回りは消える。配当性向と営業CFを見て、その配当が続くかを確認する。
導出・詳細 → 決算書を読む
定義 純利益のうち何%を配当に回しているか。
目安 日本企業では30〜40%が標準的。100%超は利益を超えて配当していることを意味する。
注意点 利益ベースなので、現金が足りているかは分からない。利益が出ていても営業CFがマイナスなら、その配当は借金か資産売却で払っている。配当性向より「配当 ÷ FCF」のほうが持続性を測れる。
導出・詳細 → 財務3表の構造
定義 PERの逆数。株価に対して利益がどれだけ乗っているか。
目安 PER15倍なら6.7%、20倍なら5%、10倍なら10%。
注意点 PERを利回りとして読み替えるための指標で、国債利回りとの比較に使える。ただし利益は株主に全額配られるわけではないので、実際に手にする利回りではない。
導出・詳細 → 株価の正体
定義 PERを利益成長率で割った値。成長を加味してPERを調整する。
目安 1倍以下で割安、2倍以上で割高、という語られ方をする。
注意点 理論的な裏付けが弱い。PER = 1/(r−g) は g について非線形なので、PERを g で単純に割る操作に対応する導出はない。さらに使う成長率が「来期予想」か「今後5年」かで値が数倍変わる。目安としてのみ扱う。
導出・詳細 → 株価の正体
定義 企業価値が年間売上高の何倍かを示す。PSRの資本構成中立版。
目安 PSRと同様、業種依存が極端に大きい。
注意点 PSRが借金の有無で歪むのに対し、こちらは資本構成に中立。赤字企業を比較するならPSRよりこちらが整合的。ただし利益率を無視する欠点はPSRと同じ。
導出・詳細 → 企業価値を見積もる
収益性
定義 株主が出した資本に対して、どれだけの利益を生んだか。
目安 日本企業の平均は8〜10%程度。東証は8%以上を1つの目安として示してきた。
注意点 借金を増やすと自己資本が減るので、事業が改善しなくてもROEは上がる。デュポン分解で、上がった原因が利益率か回転率か財務レバレッジかを特定する。自社株買いでも機械的に上がる。
導出・詳細 → 決算書を読む
定義 総資産に対してどれだけの利益を生んだか。借金も含めた全資産の効率。
目安 5%以上で良好とされることが多いが、業種差が極めて大きい(小売は低く、ソフトウェアは高い)。
注意点 分子に純利益(=支払利息を引いた後)、分母に総資産(=借金を含む)を使うので、分子と分母の対象がずれている。厳密には分子をEBIT×(1−t)にするのが整合的。
導出・詳細 → 決算書を読む
定義 事業に投下した資本(有利子負債+株主資本)が、税引後でどれだけ稼いだか。
NOPAT = EBIT × (1 − 実効税率)
目安 WACCを上回っているかが唯一の実質的な目安。日本企業では6〜8%が一つの水準。
注意点 ROICとWACCの差が価値創造の源泉。ROIC < WACC の会社は、成長するほど価値を破壊する。投下資本の定義(現金を含むか、のれんを含むか)で数字が変わるので、時系列で比較するときは定義を固定する。
導出・詳細 → 企業価値を見積もる
定義 売上高のうち、本業でどれだけ利益として残ったか。
目安 製造業で5〜10%、小売で2〜5%、ソフトウェアで20%超。業種を跨いだ比較に意味はない。
注意点 同業他社との比較と、自社の時系列比較にのみ使う。低下しているときは、値下げ圧力か固定費の増加のどちらかを特定する。
導出・詳細 → 決算書を読む
定義 売上高から売上原価を引いた粗利益の比率。価格決定力の指標として使われる。
目安 業種依存。低下傾向は競争激化か原価上昇のシグナルになる。
注意点 売上原価に何を入れるかは会社によって違う。物流費を販管費に入れる会社と原価に入れる会社では粗利率が変わる。他社比較のときは有価証券報告書で内訳を確認する。
導出・詳細 → 決算書を読む
定義 ROEを3つの要素に分解して、何がROEを動かしているかを特定する。
= (純利益/売上高) × (売上高/総資産) × (総資産/自己資本)
目安 3要素のどれが動いたかを見る。3つを掛けると定義上ROEに戻る(約分すると純利益/自己資本)。
注意点 財務レバレッジによるROE上昇は、事業の改善ではなくリスクの増加。ROEが同じ2社でも、片方が利益率で稼ぎ、片方が借金で嵩上げしているなら性質が全く違う。この分解の主目的はそこを見分けること。
導出・詳細 → 決算書を読む
定義 利払い・税・減価償却前の利益。設備投資の会計処理と資本構成の違いを除いた収益力。
目安 EV/EBITDAの分母として使われる。単独の水準に意味はなく、常に倍率の形で使う。
注意点 減価償却は「実際に消えていく価値」であって、無視してよい会計上の数字ではない。設備が重い会社ではEBITDAと実際に使える現金が大きく乖離する。「EBITDAを営業CFの代用にする」のは最も危険な使い方。
導出・詳細 → 企業価値を見積もる
安全性
定義 総資産のうち返済不要の資金(自己資本)が占める割合。
目安 40%以上で安定とされることが多い。ただし銀行は数%が正常で、業種によって適正値が全く違う。
注意点 高ければ良いわけではない。過剰な自己資本はROEを下げる。適正水準は事業の変動性で決まり、変動が大きい事業ほど厚い自己資本が要る。
導出・詳細 → 財務3表の構造
定義 1年以内に返す負債を、1年以内に現金化できる資産でどれだけ賄えるか。
目安 200%以上が安全、100%を割ると要注意、という語られ方をする。
注意点 流動資産には売れない在庫と回収できない売掛金が含まれうる。数字が良くても中身が悪いことがある。在庫が急増している会社では当座比率で見直す。
導出・詳細 → 財務3表の構造
定義 流動比率から在庫を除いたもの。より厳しく短期の支払能力を測る。
目安 100%以上が1つの目安。
注意点 在庫を除くので流動比率より保守的。それでも売掛金の回収可能性は問わない。売掛金の増加が売上の増加を上回っているときは、この指標も信用できない。
導出・詳細 → 財務3表の構造
定義 自己資本に対する有利子負債の倍率。財務レバレッジの直接的な指標。
目安 1倍以下が保守的、2倍を超えると重いとされることが多い。設備産業では高くなる。
注意点 低金利下では高いDEレシオでも利払いは軽い。金利が上がると同じDEレシオが急に重くなるので、水準だけでなくインタレストカバレッジと併せて見る。
導出・詳細 → 財務3表の構造
定義 利払いを営業利益で何倍賄えているか。借金の重さを収益力で測る。
目安 10倍以上で余裕、3倍を割ると要注意という語られ方。
注意点 DEレシオより実質的。負債が多くても金利が低ければ倍率は高い。ただし営業利益は変動するので、不況期の営業利益で計算し直すべき。好況期の数字だけを見ない。
導出・詳細 → 財務3表の構造
定義 現金及び現金同等物が有利子負債を上回っている状態、またはその差額。
目安 プラスなら実質無借金。時価総額に対する比率で見ることが多い。
注意点 ネットキャッシュが時価総額に近い会社は「事業がタダで付いてくる」と言われるが、その現金が株主に還元される保証はない。使われない現金はROEを押し下げるだけで、価値には寄与しない。
導出・詳細 → 企業価値を見積もる
定義 債権者と株主が要求する利回りの加重平均。企業価値評価の割引率。
E=株主資本の時価、D=有利子負債、V=E+D、t=実効税率
目安 日本企業でおおむね4〜8%。低金利下ではほぼ Re(株主資本コスト)で決まる。
注意点 Re を CAPM で置くのが慣行だが、CAPM 自体の実証的裏付けは弱い。0.5ポイントの違いが企業価値を大きく動かすので、必ず幅で評価する。E には簿価ではなく時価総額を使う。
導出・詳細 → 企業価値を見積もる
キャッシュフロー
定義 本業でどれだけ現金が入ったか。3つのCFのうち最も重要。
目安 継続的にプラスであることが最低条件。純利益と同水準か、それ以上が健全。
注意点 純利益がプラスで営業CFがマイナスの状態が最も危険。利益は出ているのに現金が入っていない=売掛金か在庫に化けている。日本基準では受取利息・支払利息を営業CFに含める会社が多く、国際比較では調整が要る。
導出・詳細 → 財務3表の構造
定義 設備投資や資産売却による現金の出入り。
目安 成長企業では大きくマイナスが正常。プラスが続くのは資産を売っている状態。
注意点 マイナスであること自体は悪くない。問題はその投資がROICを生んでいるか。投資CFがプラスに転じたら、成長投資を止めたのか資産売却で穴を埋めているのかを区別する。
導出・詳細 → 財務3表の構造
定義 借入・返済・増資・配当・自社株買いによる現金の出入り。
目安 成熟企業ではマイナス(返済と株主還元)が健全。
注意点 3つのCFの符号の組み合わせで会社の段階が読める。営業+・投資−・財務−は成熟した優良企業の型。営業−・投資−・財務+は成長期か、資金繰りが厳しいかのどちらか。
導出・詳細 → 財務3表の構造
定義 事業を維持しながら自由に使える現金。企業価値評価の対象そのもの。
(厳密には FCFF = EBIT(1−t) + 減価償却 − 設備投資 − 運転資本増)
目安 継続的にプラスで、時価総額に対して5%以上あれば水準としては高い。
注意点 年による振れが大きい。大型投資の年はマイナスになる。1年で判断せず3〜5年を均す。また「維持のための投資」と「成長のための投資」が分離されていないので、成長投資を止めればFCFは跳ね上がる。
導出・詳細 → 企業価値を見積もる
定義 仕入れの代金を払ってから、売上の代金を回収するまでの日数。
目安 短いほど資金効率が良い。マイナスなら、代金を受け取ってから仕入代金を払っている状態。
注意点 小売やプラットフォームではマイナスが普通。業種を跨いだ比較に意味はない。同社の時系列で悪化しているときは、在庫の滞留か回収の遅れが起きている。
導出・詳細 → 財務3表の構造
定義 純利益と営業CFの差。会計上の見積もりが利益に与えた影響の大きさ。
目安 小さいほど利益の質が高い。大きくプラスなら、利益が現金の裏付けを欠いている。
注意点 アクルーアルが大きい企業の将来リターンが低いという実証結果がある(Sloan 1996)が、広く知られた後は効果が弱まったという報告もある。異常値の検出には使えるが、単独の売買根拠としては弱い。
導出・詳細 → 決算書を読む
成長性
定義 複数年の成長を年率に均した値。年平均成長率。
目安 売上・利益・資産のいずれにも使える。5年CAGRで見るのが一般的。
注意点 途中の変動を完全に消す。毎年10%成長した会社と、4年横ばいで最後に61%伸びた会社が同じCAGRになる。始点と終点の選び方でも大きく変わるので、始点が異常年でないかを必ず確認する。
導出・詳細 → リスクの正体
定義 売上高の前年比伸び率。
目安 業種と規模による。大企業で年5%、成長企業で20%超。
注意点 増収の中身を分解する。数量増か値上げか、既存事業か買収か、為替か。買収による増収は継続しないし、為替による増収は反転する。
導出・詳細 → 決算書を読む
定義 利益の前年比伸び率。営業利益・経常利益・純利益それぞれで見る。
目安 増収率を上回っていれば、利益率が改善している(オペレーティングレバレッジが効いている)。
注意点 前期が異常に低いと、翌期の増益率が過大に見える。赤字からの黒字転換では増益率が計算不能または無意味になる。純利益ベースは特別損益で暴れるので、営業利益ベースを優先する。
導出・詳細 → 決算書を読む
定義 売上高のうち、どれだけが営業キャッシュフローとして残ったか。
目安 10%以上あれば現金創出力が高い部類。業種差は大きい。
注意点 営業利益率と併せて見る。営業利益率が高いのにOCFマージンが低い会社は、利益が売掛金や在庫に滞留している。この乖離が数期続くなら、利益の質を疑う。
導出・詳細 → 財務3表の構造
定義 外部から資金調達せずに実現できる成長率の上限。
目安 ROE 10%・配当性向30%なら 7%。この水準を超える成長には増資か借入が要る。
注意点 この式が示すのは「借金も増資もせずに達成できる成長」の上限。会社の計画がこれを大きく超えているなら、資金調達(=希薄化か財務リスク)が前提になっている。増資の可能性を事前に察知する道具として使える。
導出・詳細 → 決算書を読む
リスク
定義 リターンのばらつきの大きさ。リスクの最も基本的な尺度。
年率換算 σ_年 = σ_日 × √252
目安 日本株の個別銘柄で年率25〜40%、指数で15〜20%、先進国債券で3〜6%。
注意点 上振れと下振れを同じ「リスク」として扱う。また正規分布を前提にしているが、実際のリターンはファットテールを持つので、σから計算した「3σは1000年に1度」のような確率は現実より大幅に過小評価になる。
導出・詳細 → リスクの正体
定義 標準偏差の2乗。ばらつきを2乗で測ったもの。
目安 単独では解釈しにくいので、通常は平方根の標準偏差を使う。
注意点 分散が使われるのは足し算ができるから。独立な資産を組み合わせたときの合成リスクは、標準偏差では足せないが分散では足せる。ポートフォリオ理論の計算はすべて分散・共分散で行う。
導出・詳細 → 分散が効く理由
定義 市場全体が1%動いたとき、この資産が何%動くか。市場と連動する部分の大きさ。
目安 市場全体が1.0。1.2なら市場より2割大きく動く。0.7なら市場より小さい。
注意点 推定期間で大きく変わる(60か月と36か月で別の値が出る)。また過去のβが将来のβである保証はない。CAPMでの使用が前提だが、そのCAPM自体が実証的に弱いことに注意(Fama-French 1992)。
導出・詳細 → リスクの正体
定義 リスク1単位あたり、無リスク金利を何%上回ったか。リスク調整後リターンの標準的な尺度。
目安 0.5以上で良好、1.0を超えると優秀とされる。長期で1.0を超え続ける運用は稀。
注意点 上振れもリスクとして罰するので、大勝ちの多い戦略が不当に低く評価される。また期間が短いと信頼できない(3年のSRはほぼノイズ)。年率換算するときは √期間 を掛けるが、これは正規性と独立性を仮定している。
導出・詳細 → リスクの正体
定義 シャープ・レシオの分母を、下振れだけの標準偏差に置き換えたもの。
σ_下方 = 目標を下回った分だけで計算した標準偏差
目安 シャープ・レシオより高い値になる。1.0以上が1つの目安。
注意点 上振れを罰さない点でシャープより実感に近い。ただし下方偏差の計算に使うデータ点が減るので、推定の誤差はシャープより大きくなる。閾値(0にするか無リスク金利にするか)で値が変わるので、比較時は定義を揃える。
導出・詳細 → リスクの正体
定義 過去の最高値から最安値までの、最大の下落率。
目安 株式指数で30〜50%が過去に観測されている水準。個別株ではさらに深い。
注意点 σより実感に近いリスク指標。ただし1つの数字なので、その下落が3か月で起きたか3年かけて起きたかが分からない。また過去のMDDが将来の上限ではない。「過去最大でも−40%だから−40%までしか下がらない」は誤り。
導出・詳細 → リスクの正体
定義 2つの資産が同じ方向に動く度合い。−1から+1の値をとる。
目安 日本株同士で0.4〜0.7、日本株と外国株で0.6前後、株式と国債で0〜−0.3(時期による)。
注意点 相関は時期によって変わり、暴落時に上がる。平時の相関で組んだ分散は、最も必要な局面で効かない。また相関は線形の関係しか捉えないので、非線形の連動(片方が暴落したときだけ連動する)を見逃す。
導出・詳細 → 分散が効く理由
定義 「一定の確率で、これ以上は損しない」という損失額。リスク管理で広く使われる。
(正規分布を仮定した場合)
目安 95%VaRや99%VaRが一般的。「1日95%VaRが100万円」=20日に1日はそれ以上損する。
注意点 VaRを超えたときにいくら損するかを何も語らない。これが最大の欠陥で、2008年に問題になった点でもある。正規分布を仮定すると裾を過小評価するので、実際の損失はVaRを大きく超えうる。超過分の期待値を見る期待ショートフォール(ES)が代替として使われる。
導出・詳細 → リスクの正体
定義 ベンチマークとの乖離の大きさ。インデックスからどれだけ外れているか。
目安 インデックスファンドで0.1〜0.5%、アクティブファンドで4〜8%。
注意点 小さいことが良いとは限らない。インデックス連動が目的なら小さいほど良いが、超過リターンを狙うなら大きくなければそもそも差が出ない。信託報酬を取るアクティブファンドでTEが1%を切っているなら、実質インデックスに手数料を上乗せしていることになる。
導出・詳細 → 商品の中身
定義 ベンチマークを上回った分を、その乖離のリスクで割った値。アクティブ運用の効率。
目安 0.5で優秀、1.0以上は極めて稀。
注意点 シャープ・レシオのベンチマーク版。短期間のIRはほぼノイズで、統計的に意味のある推定には10年以上を要する。運用会社が3年のIRを示してきたら、それはほとんど情報を含まない。
導出・詳細 → 分散が効く理由
定義 目標を下回った分だけで計算した標準偏差。下振れリスクだけを測る。
目安 ソルティノ・レシオの分母として使う。標準偏差より小さい値になる。
注意点 上振れを罰さない点で実感に近いが、計算に使うデータ点が減るので推定誤差が大きい。目標をゼロにするか無リスク金利にするかで値が変わるので、比較時は定義を揃える。
導出・詳細 → リスクの正体
市場
定義 会社の株式全体の市場価格。株価に発行済株式数を掛けたもの。
目安 東証プライムで数百億〜数十兆円。指数への組み入れ比率の基準にもなる。
注意点 株価の水準そのものには意味がない。100円の株と10,000円の株のどちらが割安かは、株価だけでは判断できない。会社の大きさを比べるときは常に時価総額で見る。
導出・詳細 → 市場の構造
定義 実際に市場で売買されうる株式。創業家や取引先の持ち合い分を除いたもの。
目安 TOPIXの算出には浮動株比率が使われる。50%を下回ると流動性が低いとされる。
注意点 浮動株が少ない銘柄は値が飛びやすい。同じ金額の買い注文でも、板が薄いぶん価格が大きく動く。指数への採用・除外の際に大量の売買が発生するのもこのため。
導出・詳細 → 市場の構造
定義 一定期間に売買が成立した株数。
目安 銘柄ごとに水準が全く違うので、絶対値ではなくその銘柄の平常時との比で見る。
注意点 出来高は「株数」なので銘柄間で比較できない。株価100円の銘柄と10,000円の銘柄で出来高が同じでも、動いた金額は100倍違う。銘柄間の比較には売買代金を使う。
導出・詳細 → 注文と板
定義 一定期間に売買が成立した金額。流動性の実質的な尺度。
目安 自分の注文が1日の売買代金の1%を超えるなら、価格を動かす可能性がある。
注意点 個人投資家が最初に確認すべき流動性指標。売買代金が小さい銘柄では、買うときも売るときもスプレッドとマーケットインパクトで想定外のコストがかかる。
導出・詳細 → 注文と板
定義 信用買い残高が信用売り残高の何倍かを示す。需給の偏りを見る。
目安 1倍が均衡。高いほど将来の売り圧力(買った人がいずれ返済する)が溜まっている。
注意点 需給の指標であって価値の指標ではない。倍率が高いことは「将来の売りが控えている」ことを示すが、それが明日なのか半年後なのかは分からない。単独で売買根拠にはならない。
導出・詳細 → 注文と板
定義 一定期間の売買高が発行済株式数(または純資産)の何倍かを示す。
ファンド回転率 = 期間の売買額 / 純資産
目安 ファンドでは年100%(=年1回全部入れ替え)が1つの基準。
注意点 ファンドの回転率が高いほど信託報酬に表れない取引コストが発生している。目論見書の信託報酬だけを見ても実質コストは分からないので、運用報告書で売買委託手数料を確認する。
導出・詳細 → 商品の中身
定義 現在出ている指値注文を、価格ごとに並べたもの。
目安 厚い板ほど大きな注文でも価格を動かさずに執行できる。
注意点 板に見えているものがすべてではない。約定するまで出さない注文や、板の状況を見て引く注文がある。板が厚く見えても、実際に成行を打つと消えることがある。
導出・詳細 → 注文と板
定義 現在の最良買い気配(bid)と最良売り気配(ask)。その差がスプレッド。
目安 流動性の高い銘柄では呼値の1〜2ティック。低い銘柄では数%開くこともある。
注意点 スプレッドは目に見えない取引コスト。往復で必ず払う。手数料がゼロでも、スプレッドが1%あれば往復で実質1%のコストになる。売買代金の小さい銘柄で頻繁に売買すると、ここで削られる。
導出・詳細 → 注文と板
定義 複数銘柄の株価をまとめて1つの数字にしたもの。市場全体の動きを表す。
株価平均型: 指数 = Σ株価ᵢ / 除数
目安 TOPIXは時価総額加重、日経平均は株価平均型。性質が全く違う。
注意点 株価平均型では、株価の高い銘柄の影響が不釣り合いに大きい。会社の大きさに関係なく株価の絶対水準で重みが決まるため。日経平均とTOPIXが違う動きをするのはこの構造差による。
導出・詳細 → 市場の構造
債券
定義 金利が1%動いたとき、債券価格が何%動くか。金利感応度の尺度。
マコーレー・デュレーション = Σ(t × PV(CFₜ)) / P
目安 10年国債で約9年、30年債で約20年。1%の金利上昇で、それぞれ約9%・約20%の価格下落。
注意点 1次近似なので、大きな金利変動では誤差が出る。実際の価格-利回り曲線は凸なので、デュレーションだけで計算すると価格下落を過大に、上昇を過小に見積もる。補正にはコンベクシティを使う。
導出・詳細 → 金利・為替・景気
定義 デュレーションの誤差を補正する2次項。価格-利回り曲線の曲がり具合。
目安 普通の債券ではプラス。金利低下時の値上がりが、金利上昇時の値下がりより大きくなる。
注意点 コンベクシティがプラスなのは保有者にとって有利。金利が動くほど(どちらの方向でも)デュレーションだけの予測より良い結果になる。ただし繰上償還条項の付いた債券ではマイナスになりうる。
導出・詳細 → 金利・為替・景気
定義 残存期間ごとの利回りを並べた曲線。金利の期間構造。
目安 通常は右上がり(長期ほど高い)。平坦化・逆転は景気減速のシグナルとされてきた。
注意点 逆イールドが景気後退に先行してきたのは米国での観測で、日本では長期の金融緩和で形状が政策によって直接操作されてきた期間がある。日本のカーブを米国と同じ意味で読むのは危険。
導出・詳細 → 金利・為替・景気
定義 同年限の国債利回りに対する、社債などの上乗せ幅。信用リスクの価格。
目安 投資適格社債で0.5〜1.5%、ハイイールドで3〜8%。景気悪化局面で急拡大する。
注意点 スプレッドの拡大は株価下落に先行または同時に起きることが多く、市場のリスク許容度の指標として使われる。ただし流動性の低下でも拡大するので、信用悪化と流動性枯渇のどちらかは区別が要る。
導出・詳細 → 金利・為替・景気
制度
定義 一定の投資枠内で得た配当・譲渡益が非課税になる制度。
目安 2024年開始の制度では、つみたて投資枠と成長投資枠を併用でき、非課税保有限度額は1,800万円(うち成長投資枠1,200万円)。制度内容は改正されうるので、必ず金融庁の公式ページで現行制度を確認すること。
注意点 損益通算と繰越控除ができないのが最大の注意点。NISA口座で出した損失は、特定口座の利益と相殺できないし、翌年以降に繰り越すこともできない。損する可能性が高い取引をNISAでやると、課税口座より不利になりうる。
導出・詳細 → 制度とコスト
定義 個人型確定拠出年金。掛金が所得控除になり、運用益も非課税になる私的年金制度。
目安 掛金の上限は加入区分によって異なる。制度は改正されるので、現行の上限は必ず公式情報で確認すること。
注意点 原則60歳まで引き出せない。これが最大の制約で、流動性を完全に失う。また受取時には退職所得控除・公的年金等控除の範囲を超えると課税される。「完全非課税」ではなく課税の繰り延べと控除の組み合わせ。口座管理手数料も毎月かかる。
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定義 証券会社が譲渡損益を計算してくれる口座。源泉徴収ありを選ぶと確定申告が原則不要になる。
目安 個人が最初に開く口座として標準的。
注意点 源泉徴収ありでも、複数の証券会社で損益通算するには確定申告が要る。A社で利益、B社で損失が出た場合、申告しなければA社の源泉徴収分が戻らない。また申告すると合計所得金額が増え、扶養や社会保険の判定に影響することがある。
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定義 同一年内の譲渡益と譲渡損を相殺して、課税対象を減らす仕組み。
目安 上場株式等の譲渡損は、上場株式等の譲渡益および申告分離課税を選択した配当所得と通算できる。
注意点 NISA口座の損失は通算できない。また上場株式等の損失を、給与所得や不動産所得と通算することはできない。一般株式等(非上場)と上場株式等の間でも通算できない。詳細は必ず国税庁のタックスアンサーで確認すること。
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定義 その年に相殺しきれなかった譲渡損失を、翌年以降に繰り越して控除する制度。
目安 損失が出た年と、繰り越している間の各年について、確定申告が毎年必要。
注意点 1年でも申告を忘れると、その後の繰越が使えなくなる。損失の出た年に「どうせ税金がかからないから」と申告しないのが典型的な失敗。取引がない年でも申告を継続する必要がある。
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定義 国内株式の配当について総合課税を選んだ場合に受けられる税額控除。
目安 課税所得が低い人ほど、総合課税+配当控除が申告分離課税より有利になりうる。
注意点 総合課税を選ぶと、その年の上場株式等の配当すべてが総合課税になり、譲渡損との通算ができなくなる。また合計所得が増えることで社会保険料や各種判定に影響する。有利不利は個人の所得状況で逆転するので、国税庁の情報を確認したうえで、必要なら税理士に相談すること。
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指標を使うときの原則
- 単独では使わない PERはROEと成長率を、ROEはデュポン分解を、 配当利回りは配当性向とFCFを併せて見る。 1つの数字で判断できる指標は存在しない
- 業種内で比べる 営業利益率もCCCもPBRも、適正水準が業種で全く違う。 製造業とソフトウェアを同じ物差しで測らない
- 時系列で見る 他社比較より、同社の3〜5年の推移のほうが情報が多い。 水準ではなく変化の方向とその理由を見る
- 何を測っていないかを言えるか 各項目の「注意点」がこれにあたる。 指標を使う前に、その指標が捉えられないものを1つ挙げられるかを確認する
- 数字が良いことと投資対象として良いことは別 優れた指標を持つ会社は、すでにその優秀さが株価に織り込まれている。 逆DCFで、市場が何を織り込んでいるかを先に確認する