出典

このサイトが何に依拠していて、どこから先が意見なのか。

投資の情報は、導出できる話・実証で争われている話・書き手の意見が 混ざって流通している。混ざったまま読むと、 意見を事実として受け取ることになる。 このページはその線引きを明示するためにある。

本サイトの内容は投資助言ではない。 特定の銘柄・商品・投資手法の推奨を目的としていない。 登場する企業・数値例はすべて架空のものである。

また時期によって変わる数値には「いつ時点か」が付いていなければならない。 制度(NISA・税率・口座区分)、市場水準(平均PER・国債利回り)、 統計(平均信託報酬)はいずれも変わる。 実際に手続きや判断をする前に、下記の一次情報で現行の値を確認すること。

一次情報

制度と統計については、必ずこれらの一次情報を当たること。 解説サイトや書籍は更新が遅れる。 特に税制と口座制度は毎年のように変わる。

金融庁

国税庁

日本取引所グループ(JPX)

日本銀行・財務省

投資信託協会

企業の開示情報

理論の原典

本サイトで導いた式の出所。 原典を挙げるのは権威付けのためではなく、 「この式がどういう問題設定の下で導かれたか」を確認できるようにするためである。 前提を確認できないモデルは、使い方を間違える。

ポートフォリオ理論

Markowitz (1952)

Markowitz, H. (1952). "Portfolio Selection." The Journal of Finance, 7(1), 77–91.

何を示したか:リターンの期待値だけでなく分散を 同時に考えるべきこと。相関が1未満の資産を組み合わせると、 期待リターンを落とさずに分散を下げられること。

本サイトでの使用:分散が効く理由の 2資産分散の式はここから。

限界:期待リターン・分散・相関を既知として扱う。 実際にはすべて推定値で、特に期待リターンの推定誤差は極めて大きい。 推定誤差を入れると、最適化の結果は不安定になる。

Sharpe (1964)

Sharpe, W. F. (1964). "Capital Asset Prices: A Theory of Market Equilibrium under Conditions of Risk." The Journal of Finance, 19(3), 425–442.

何を示したか:均衡状態では、報われるリスクは 市場と連動する部分(β)だけであること。CAPM。 Lintner (1965)、Mossin (1966) も独立に近い結論に達している。

本サイトでの使用:リスクの正体のβ、 企業価値を見積もるの株主資本コスト。

限界:実証的な支持は弱い。 βと実現リターンの関係は、データでは想定より平坦であることが繰り返し報告されている。 それでも実務で使われるのは、合意された代替がないため。 本サイトでも「正しい値を得る手続き」ではなく 「1つの値に決めるための慣行」として扱っている。

市場の効率性

Fama (1970)

Fama, E. F. (1970). "Efficient Capital Markets: A Review of Theory and Empirical Work." The Journal of Finance, 25(2), 383–417.

何を示したか:効率的市場仮説を ウィーク型・セミストロング型・ストロング型に整理した。

本サイトでの使用:市場の構造、 テクニカルの議論の枠組み。

限界:効率性の検定には必ず価格モデルが要るので、 「市場が非効率だった」のか「モデルが間違っていた」のかを分離できない (ジョイント仮説問題)。 これはFama自身が指摘している。 「市場は効率的だ」も「非効率だ」も、単独では検証できない主張である。

Shiller (1981)

Shiller, R. J. (1981). "Do Stock Prices Move Too Much to be Justified by Subsequent Changes in Dividends?" The American Economic Review, 71(3), 421–436.

何を示したか:株価の変動が、 実際の配当の変動から説明できる範囲を大きく超えていること(過剰変動)。 効率的市場仮説への実証的な反論として影響が大きかった。

本サイトでの使用:市場の構造、 判断を歪めるものの背景。

論争:この結果に対しては 「割引率が時間とともに変動すると考えれば説明できる」という反論があり、 決着していない。Fama と Shiller は 2013年に 同時にノーベル経済学賞を受賞している。 対立する見解が並んで評価されている状態そのものが、 この分野の未確定さを示している。

ファクター

Fama and French (1992, 1993)

Fama, E. F., & French, K. R. (1992). "The Cross-Section of Expected Stock Returns." The Journal of Finance, 47(2), 427–465.

Fama, E. F., & French, K. R. (1993). "Common Risk Factors in the Returns on Stocks and Bonds." Journal of Financial Economics, 33(1), 3–56.

何を示したか:βだけでは断面のリターンを説明できず、 企業規模とBook-to-Market(PBRの逆数)が説明力を持つこと。 3ファクターモデル。

本サイトでの使用:銘柄を絞るの ファクター投資の説明。

解釈の争い:この結果を 「リスクの対価」と読むか 「市場の非効率」と読むかで、著者たちの間でも立場が分かれている。 前者なら効果は続くはずで、後者なら知られた時点で消えるはず。 2000年代以降のバリュー・プレミアムの縮小は、 どちらの解釈からも説明できてしまう。

Jegadeesh and Titman (1993)

Jegadeesh, N., & Titman, S. (1993). "Returns to Buying Winners and Selling Losers: Implications for Stock Market Efficiency." The Journal of Finance, 48(1), 65–91.

何を示したか:過去3〜12か月の勝ち銘柄を買い、 負け銘柄を売る戦略が、同期間で正の超過リターンを生むこと(モメンタム)。

本サイトでの使用:テクニカル、 売り時を決めるのトレーリングストップの背景。

限界:モメンタムは崩壊(momentum crash)を起こす。 市場の反転局面で大きな損失を出す性質があり、 平時の高いシャープ・レシオは 稀に起きる急落と引き換えに得られている。 また回転率が高いので、取引コスト控除後にどれだけ残るかは 実装によって大きく変わる。

賭け額

Kelly (1956)

Kelly, J. L., Jr. (1956). "A New Interpretation of Information Rate." Bell System Technical Journal, 35(4), 917–926.

何を示したか:情報を持つ賭け手の資金成長率が最大になる賭け額。 f* = (bp − q)/b。 元は通信路の情報伝送レートの議論で、賭けは説明のための例だった。

本サイトでの使用:いくら賭けるかの全体。

限界:勝率とオッズが正確に分かっていることを前提にする。 投資ではこの前提が成り立たない。 推定誤差があるとフル・ケリーは過大な賭け額を出すので、 本サイトでは「公式」ではなく「上限を測る定規」として扱っている。

行動

Kahneman and Tversky (1979)

Kahneman, D., & Tversky, A. (1979). "Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk." Econometrica, 47(2), 263–291.

何を示したか:人は絶対的な富の水準ではなく 参照点からの変化で評価すること。 同じ大きさの損失は利得より強く感じられること(損失回避)。 利得局面ではリスク回避的、損失局面ではリスク追求的になること。

本サイトでの使用:判断を歪めるものの全体、 売り時を決めるの売却が難しい理由。

注意:これは記述的な理論であって、 規範的な理論ではない。「人はこう判断する」と示しただけで、 「こう判断すべき」とは言っていない。 バイアスを知っても、それを避けられるようにはならないという点は 繰り返し確認されている。

資本構成

Modigliani and Miller (1958, 1963)

Modigliani, F., & Miller, M. H. (1958). "The Cost of Capital, Corporation Finance and the Theory of Investment." The American Economic Review, 48(3), 261–297.

Modigliani, F., & Miller, M. H. (1963). "Corporate Income Taxes and the Cost of Capital: A Correction." The American Economic Review, 53(3), 433–443.

何を示したか:完全市場(税なし・倒産コストなし・情報対称)では、 資本構成は企業価値に影響しない(第1命題)。 1963年の修正で、法人税を入れると 負債の節税効果の分だけ企業価値が上がることを示した。

本サイトでの使用:企業価値を見積もるの EV/EBITDA が資本構成に中立である理由、WACCの (1−t) 項。

読み方:この定理の価値は 「資本構成が価値を変えるなら、完全市場のどの仮定が破れているのかを特定せよ」 という問いを立てたところにある。 実際に効いているのは節税効果・倒産コスト・情報の非対称性であり、 MM自体はそれらを分離するための基準線として使う。

検証の限界

ここが最も重要な節である。 上に挙げた実証研究の結果を、そのまま事実として扱ってはいけない理由を 並べる。これを知らずにファクター投資やバックテストの結果を読むと、 ほぼ確実に判断を誤る。

多重検定とデータマイニング

Harvey, Liu, and Zhu (2016)

Harvey, C. R., Liu, Y., & Zhu, H. (2016). "… and the Cross-Section of Expected Returns." The Review of Financial Studies, 29(1), 5–68.

何を示したか:学術論文で発表されたリターン予測ファクターが 数百に達しており、これだけの数を試せば 偶然に有意な結果が大量に出ること。

提案:多重検定を考慮すると、 新しいファクターの有意水準は t値が3.0を超えることを要求すべき。 通常使われる t > 2.0(5%水準)では、発表済みファクターの 相当数が基準を満たさなくなる。

帰結:「学術論文で有意とされた」は、 それだけでは効果の存在を意味しない。 本サイトでファクターの話を「証拠が弱い」と書いているのは、 主にこの理由による。

出版バイアス

再現性の問題

生存バイアス

先読みバイアス

まとめて言うと

読みがちな読み方 「研究で有意な超過リターンが確認されている」=この戦略は儲かる
妥当な読み方 「あるデータ期間・ある手法で、統計的な関係が観測された」。それが将来も成立するかは、上の5つを潰して初めて議論できる

どこまで確かなのか

このサイトの記述は、確からしさが一様ではない。 導出できるものと、観測にすぎないものを混ぜると、 両方の信頼度を見誤る。下の図はその内訳。

上ほど確か。数学的に導けるものは前提さえ合えば必ず成り立つが、 実証結果は将来も成り立つ保証がない。

公表されたアノマリーが、公表後にどれだけ弱まるかの模式図。 McLean & Pontiff (2016) は公表後に約58%減衰したと報告している (生成データによる模式図であり、個別の手法の実測値ではない)。

有意水準5%で m 個の無関係な戦略を検定したとき、 少なくとも1つが「有効」に見える確率 1 − 0.95m。 20個試せば偶然の当たりがほぼ確実に出る。

このサイトの立場

本サイトの記述は3つに分かれる。読むときに区別してほしい。

1. 導出(信頼できる)

定義と仮定から数学的に出てくる部分。 前提を認めるなら結論も認めざるを得ない種類の話。

内容章
PER = 1/(r−g)、割引現在価値株価の正体
PBR = PER × ROE、デュポン分解株価の正体/決算書を読む
2資産の分散公式、N資産で共分散が残ること分散が効く理由
−d の回復に d/(1−d) が要ることリスクの正体
ケリー基準、f=2f* で成長率がゼロを切ることいくら賭けるか
EV/EBITDA が資本構成に中立であること企業価値を見積もる
DCFの価値の大半をTVが占めること企業価値を見積もる
税の繰り延べが複利に効くこと売り時を決める

ただし「導出が正しい」は「現実に当てはまる」ではない。 ゴードンモデルの導出は完全に正しいが、 「永久に一定成長する会社」は存在しない。 導出の信頼性は式の内部にあり、前提が現実と合うかは別の問題である。

2. 実証(争われている)

データで観測された関係。期間・市場・手法によって結果が変わるので、 「そういう報告がある」以上のことは言えない。

内容本サイトでの扱い
バリュー・小型株のプレミアム観測された報告はあるが、解釈も持続性も未確定
モメンタム広く観測されているが、崩壊リスクとコストが大きい
CAPMのβとリターンの関係実証的な支持は弱い。それでも慣行として使う
株式のリスクプレミアムの水準推定期間で3%〜8%まで動く。単一の値は出せない
アクルーアルと将来リターンの関係報告はあるが、発表後に弱まったという指摘もある
テクニカル指標の有効性コスト控除後に残る証拠は乏しい
短期・長期の平均回帰短期は弱い証拠、長期はやや強い証拠。合意はない

3. 意見(書き手の判断)

検証も導出もできないが、本サイトが取っている立場。 ここは読者が採用しなくてよい部分である。

本サイトが意図的にやらないこと

数値の as-of について

本サイトに出てくる時期依存の数値には、次の性質がある。

  • 制度(NISAの限度額、税率、口座区分)——改正される。 必ず上記の一次情報で現行を確認する
  • 市場水準(平均PER、国債利回り、平均信託報酬)—— 日々あるいは年々変わる。本サイトの数値は 桁感を掴むための参照点であって、計算に使う値ではない
  • 「目安」として示した水準—— 業種・規模・時期で適正値が変わる。 目安から外れていること自体は何も意味しない

この情報に基づいて行動して結果が悪かったとしても、 それでも判断としては妥当だった——そう言える状態を目指して書いている。 そのためには、確かなことと不確かなことを混ぜないことが要る。 混ぜていると感じた箇所があれば、それは本サイトの欠陥である。

参照した二次資料について

本サイトは特定の教科書や解説書に依拠していない。 式はすべて上記の原典に遡れる形で導出しており、 途中の説明を他書から借りていない。

さらに読む場合の方向だけ示す。書名は挙げない (版によって内容が変わり、推奨と受け取られるため)。

誤りを見つけた場合、それは本サイトの誤りである。 原典や一次情報と食い違っている箇所があれば、原典が正しい。